UNION TOKYOのホームにして、多くの名店がひしめくカレーのメッカ、渋谷区神宮前。そんな神宮前の街を舞台に、服と食との垣根を超えて展開するクロスオーバープロジェクト、UNION JINGUMAE CURRY CONNECTION。ここでは、本プロジェクトに参画するカレーショップ5店舗を深堀り。#3は、異色の肩書きを持つ店主が切り盛りするUNION TOKYOのご近所さん、『ヨゴロウ』。
UNION TOKYOから徒歩約30秒。ほぼ目の前、とまではいかないが、そう言っても差し支えないくらいの距離に居を構えるカレーショップ、『ヨゴロウ』。視認性という意味では不利な半地下物件にも関わらず、店名を掲げる看板やサインなどは一切なし。目印は、営業中は開け放たれている玄関ドアの内側に貼られた、無数のステッカー。見ればそのほとんどが、近隣にオフィスを置くアパレルブランドやショップ、アーティスト、クリエイティブユニットなど、いわゆる東京ストリート界隈のアカウントのものばかり。しかしそれは決して、神宮前という土地柄だけが生んだ縁ではない。そこには店主である西さんの前職も、大きく関係している。
「自分は元々、“BOON”というファッション誌でライターをやっていたんです。大学生の頃に知り合いづてで編集部を紹介してもらい、撮影用のスニーカーの紐通しなどのお手伝いから始めて、段々と。AIR MAX 95がまだ流行っていた時期だったから、多分96〜97年くらいからですかね。そのままの流れで卒業してからもライターを続けていたんですが、しばらくして、すごく志の高い後輩たちがたくさん入ってきたんですよ。そんな彼らを見ているうちに、こういう熱量の高い人たちが作っていくべきだよな、って思うようになって、なんとなく別の道を模索し始めたんですた。そこで考えたのが飲食業。正直、まったく経験もなかったんですけど、制作業の大変さは身に沁みていたし、アパレルの厳しさも目の当たりにしてましたからね」。
当時、西さんは20代後半。次なるステージとして飲食業に挑戦しようとは決めたものの、果たしてどんな業態でやるべきか。思案の結果たどり着いたのが、釜飯だったという。
「特に深い意味があったわけでもなくて、釜飯だったら教えてあげるよっていう知り合いがいたんです。聞けば特に修行も必要なさそうだったし、実際、仕込みさえしっかりやっておけばイケそうだったので。っていうのも、実はその少し前に、もう今の物件を契約しちゃっていたんですよ。だからとにかく早く動かしたいっていう気持ちもあって。そこで店名も和風な雰囲気がいいかなと思い、おじいちゃんの名前をそのままいただきました。それが『ヨゴロウ』。釜飯屋のつもりでつけた店名です(笑)」。
今や平日でも行列必至の人気店が、まさか当初は釜飯屋の予定だったとは。少なからぬ衝撃を覚えつつも、なぜカレー屋へと変貌したのかが気になる所。西さんは語る。
「その頃のこの辺りって、夜になると人通りがとても少なかったんですよ。ってなると、やっぱりランチメインのメニューのほうが良いんじゃないかなって。今思えば、かなり見切り発車ですよね(笑)。それで当時から良くしてもらっていた定食屋『金魚鉢』の渡辺さんに相談したところ、とりあえずカレーやってみれば?って。ダメだったら『金魚鉢 2号店』みたいにして良いからと言ってもらったのも大きくて、そのまま諸々の段取りも渡辺さんが進めてくださって、その流れでカレーをやることにしました。とはいえもう物件を抑えてしまっているし、修行をする時間もない。だからまずは友達だけを対象にして、練習と営業を兼ねて開店させたんです。幸いライターをやっていた時の繋がりもあったので、この辺りで働いている同年代の友達も多かったですからね」。
現在『ヨゴロウ』では、ベースとなるトマトとホウレン草の2種類から、チキンかポークが選択可能。そこにビンディキーマを加えたラインナップとなっている。ちなみにポークは1日5食限定の激レアメニューなのでご注意。と、人気店としてはメニューは少なめな印象だが、しかしこの品数で『ヨゴロウ』は、日々行列を生み出している。
「今のメニューは、かなり早い段階で固定されましたね。そこから少しずつマイナーチェンジを加えて、今に至っています。だけどさっきも言ったとおり、ボクは特に修行もしてないし、完全に自己流のメニューです。レシピの参考にしたのは、何冊かのカレー本と、当時テレビで放送していた料理番組でのインドカレー特集。あとは神保町の有名なインドカレー屋さんとかも参考にしながら、自分なりに足したり引いたり、色々と試行錯誤していった感じです。思うにカレーって、自由度が高いんですよ。あまりセオリーがないというか。そういう意味では、ボク自身があまり料理のセオリーを知らなかったっていうのも、功を奏したのかもしれません」。
それ故のこのオリジナリティー。他のお店の作り方を知らないから、それがどれほどのものかもわからないと西さんはいうが、その独創性は多くの食通やカレーマニアたちを唸らせている。
そんな西さんのオリジナリティーは、カレー以外にもさまざまな場所に反映されている。例えばそれは、カレー鍋に使用した鋳鉄製のパエリアパンや、店内に流れるルーツミュージック、レコードのパーテーションなど音楽の匂いのする設え、そしてアートユニット『Gravityfree』が手掛けたヴィンテージライクな内装など。自由なアイディアとカルチャーに紐づいた世界観は、まさにここ神宮前という街を象徴するかのようだ。
今回『ヨゴロウ』のコラボレーションパートナーには、ロンドンに拠点を置く新進気鋭ブランド、『NICHOLAS DALEY』を抜擢。セントラル・セント・マーチンズを卒業した同名のジャマイカ系イギリス人デザイナーが描く世界観は、ルーツミュージックやレゲエサウンドなどを敬愛する西さんとのコラボ相手として、まさにうってつけ。シンプルでありながらもカルチャーの本質を感じさせる、力強い1枚へと仕上げられた。
人気雑誌のライターから転身して15年。資本の参入、インバウンドの急増、そしてコロナによる多くのテナントの入れ替わりなど、目まぐるしく変わりゆくこの神宮前という街は、西さんの目にどう映っているのか。
「いわゆる原宿エリアとは違って、神宮前の中でもウチがある2丁目界隈って、昔は本当になんにもなくて、すごくのんびりした場所だったんですよ。それが今ではご覧のとおり、洋服屋さんもごはん屋さんも色々できたし、それこそUNIONさんもすごく近所にできましたよね。でもやっぱり本質的な部分は変わってないと思います。買い物客も外国人観光客も増えたけど、相変わらず昔ながらのファンキーな人も多いし、地元の方々もいる。そういうミックス感のあるローカルな雰囲気が、ボクはとても好きなんですよ」。
<< SHOP DATA>>
ヨゴロウ
渋谷区神宮前2-20-10 小松ビル1F
03-3746-9914
日祝定休
PRICE
¥8,800
RELEASE
2024/08/03 (SAT)
DESIGNED BY
NICHOLAS DALEY
@nicholas_daley
UNION TOKYOのホームにして、多くの名店がひしめくカレーのメッカ、渋谷区神宮前。そんな神宮前の街を舞台に、服と食との垣根を超えて展開するクロスオーバープロジェクト、UNION JINGUMAE CURRY CONNECTION。ここでは、本プロジェクトに参画するカレーショップ5店舗を深堀り。#3は、異色の肩書きを持つ店主が切り盛りするUNION TOKYOのご近所さん、『ヨゴロウ』。
UNION TOKYOから徒歩約30秒。ほぼ目の前、とまではいかないが、そう言っても差し支えないくらいの距離に居を構えるカレーショップ、『ヨゴロウ』。視認性という意味では不利な半地下物件にも関わらず、店名を掲げる看板やサインなどは一切なし。目印は、営業中は開け放たれている玄関ドアの内側に貼られた、無数のステッカー。見ればそのほとんどが、近隣にオフィスを置くアパレルブランドやショップ、アーティスト、クリエイティブユニットなど、いわゆる東京ストリート界隈のアカウントのものばかり。しかしそれは決して、神宮前という土地柄だけが生んだ縁ではない。そこには店主である西さんの前職も、大きく関係している。
「自分は元々、“BOON”というファッション誌でライターをやっていたんです。大学生の頃に知り合いづてで編集部を紹介してもらい、撮影用のスニーカーの紐通しなどのお手伝いから始めて、段々と。AIR MAX 95がまだ流行っていた時期だったから、多分96〜97年くらいからですかね。そのままの流れで卒業してからもライターを続けていたんですが、しばらくして、すごく志の高い後輩たちがたくさん入ってきたんですよ。そんな彼らを見ているうちに、こういう熱量の高い人たちが作っていくべきだよな、って思うようになって、なんとなく別の道を模索し始めたんですた。そこで考えたのが飲食業。正直、まったく経験もなかったんですけど、制作業の大変さは身に沁みていたし、アパレルの厳しさも目の当たりにしてましたからね」。
当時、西さんは20代後半。次なるステージとして飲食業に挑戦しようとは決めたものの、果たしてどんな業態でやるべきか。思案の結果たどり着いたのが、釜飯だったという。
「特に深い意味があったわけでもなくて、釜飯だったら教えてあげるよっていう知り合いがいたんです。聞けば特に修行も必要なさそうだったし、実際、仕込みさえしっかりやっておけばイケそうだったので。っていうのも、実はその少し前に、もう今の物件を契約しちゃっていたんですよ。だからとにかく早く動かしたいっていう気持ちもあって。そこで店名も和風な雰囲気がいいかなと思い、おじいちゃんの名前をそのままいただきました。それが『ヨゴロウ』。釜飯屋のつもりでつけた店名です(笑)」。
今や平日でも行列必至の人気店が、まさか当初は釜飯屋の予定だったとは。少なからぬ衝撃を覚えつつも、なぜカレー屋へと変貌したのかが気になる所。西さんは語る。
「その頃のこの辺りって、夜になると人通りがとても少なかったんですよ。ってなると、やっぱりランチメインのメニューのほうが良いんじゃないかなって。今思えば、かなり見切り発車ですよね(笑)。それで当時から良くしてもらっていた定食屋『金魚鉢』の渡辺さんに相談したところ、とりあえずカレーやってみれば?って。ダメだったら『金魚鉢 2号店』みたいにして良いからと言ってもらったのも大きくて、そのまま諸々の段取りも渡辺さんが進めてくださって、その流れでカレーをやることにしました。とはいえもう物件を抑えてしまっているし、修行をする時間もない。だからまずは友達だけを対象にして、練習と営業を兼ねて開店させたんです。幸いライターをやっていた時の繋がりもあったので、この辺りで働いている同年代の友達も多かったですからね」。
現在『ヨゴロウ』では、ベースとなるトマトとホウレン草の2種類から、チキンかポークが選択可能。そこにビンディキーマを加えたラインナップとなっている。ちなみにポークは1日5食限定の激レアメニューなのでご注意。と、人気店としてはメニューは少なめな印象だが、しかしこの品数で『ヨゴロウ』は、日々行列を生み出している。
「今のメニューは、かなり早い段階で固定されましたね。そこから少しずつマイナーチェンジを加えて、今に至っています。だけどさっきも言ったとおり、ボクは特に修行もしてないし、完全に自己流のメニューです。レシピの参考にしたのは、何冊かのカレー本と、当時テレビで放送していた料理番組でのインドカレー特集。あとは神保町の有名なインドカレー屋さんとかも参考にしながら、自分なりに足したり引いたり、色々と試行錯誤していった感じです。思うにカレーって、自由度が高いんですよ。あまりセオリーがないというか。そういう意味では、ボク自身があまり料理のセオリーを知らなかったっていうのも、功を奏したのかもしれません」。
それ故のこのオリジナリティー。他のお店の作り方を知らないから、それがどれほどのものかもわからないと西さんはいうが、その独創性は多くの食通やカレーマニアたちを唸らせている。
そんな西さんのオリジナリティーは、カレー以外にもさまざまな場所に反映されている。例えばそれは、カレー鍋に使用した鋳鉄製のパエリアパンや、店内に流れるルーツミュージック、レコードのパーテーションなど音楽の匂いのする設え、そしてアートユニット『Gravityfree』が手掛けたヴィンテージライクな内装など。自由なアイディアとカルチャーに紐づいた世界観は、まさにここ神宮前という街を象徴するかのようだ。
今回『ヨゴロウ』のコラボレーションパートナーには、ロンドンに拠点を置く新進気鋭ブランド、『NICHOLAS DALEY』を抜擢。セントラル・セント・マーチンズを卒業した同名のジャマイカ系イギリス人デザイナーが描く世界観は、ルーツミュージックやレゲエサウンドなどを敬愛する西さんとのコラボ相手として、まさにうってつけ。シンプルでありながらもカルチャーの本質を感じさせる、力強い1枚へと仕上げられた。
人気雑誌のライターから転身して15年。資本の参入、インバウンドの急増、そしてコロナによる多くのテナントの入れ替わりなど、目まぐるしく変わりゆくこの神宮前という街は、西さんの目にどう映っているのか。
「いわゆる原宿エリアとは違って、神宮前の中でもウチがある2丁目界隈って、昔は本当になんにもなくて、すごくのんびりした場所だったんですよ。それが今ではご覧のとおり、洋服屋さんもごはん屋さんも色々できたし、それこそUNIONさんもすごく近所にできましたよね。でもやっぱり本質的な部分は変わってないと思います。買い物客も外国人観光客も増えたけど、相変わらず昔ながらのファンキーな人も多いし、地元の方々もいる。そういうミックス感のあるローカルな雰囲気が、ボクはとても好きなんですよ」。
<< SHOP DATA>>
ヨゴロウ
渋谷区神宮前2-20-10 小松ビル1F
03-3746-9914
日祝定休
PRICE
¥8,800
RELEASE
2024/08/03 (SAT)
DESIGNED BY
NICHOLAS DALEY
@nicholas_daley