ファッションの歴史を振り返ると、時代を象徴するスタイルの近くにはいつも音楽の存在があった。音楽が身にまとうべき服を教えてくれる。その服が、自分が何者であるかを世に示してくれる。UNIONが発信するカルチャーに特化したコンテンツ『KNOW THE LEDGE』にミュージックシーンに特化した『MUSIC BREAK』が新たにスタート。常識を壊してくれる最高のミュージシャンに出会おう。UNIONというカルチャーをより立体的に感じるために。
LAを拠点に活動するベーシスト/シンガー/ソングライターのサンダーキャットが5月16日から日本ツアーをスタートさせる。2度の延期により既に販売されたチケットが繰り越されることを受けて異例の1日2回公演となった今回。追加チケットが4月23日から販売されている。現時点での最新アルバム『It Is What It Is』が発売されたのは20年4月だった。それから現在まで、決して平穏とは言えない時間を経て、今再び、爆音で鳴らされるあの感情豊かなベースラインに身を委ねられる機会が訪れた。ほんの少しでいい。誰もがタフでいることを強いられたこの2年間を“It Is What It Is(しょうがない)”ことだったと思わせてくれないだろうか。
サンダーキャットことスティーブン・ブルーナーは、そのキャリアを通じて我々との間に実に多くの接点を生み出し続けてきた。21年3月に開催された第63回グラミー賞で最優秀プログレッシブR&Bアルバム部門を受賞した4thアルバム『It Is What It Is』や、世界的な評価を確立させた3rdアルバム『Drunk』といった自身の諸作は言うに及ばず、特筆すべきはこれまでに多くのミュージシャンを支えてきた客演の軌跡である。エリカ・バドゥの『New Amerykah』、フライング・ロータスの『Cosmogramma』、ケンドリック・ラマーの『To Pimp a Butterfly』、トラヴィス・スコットの『Astroworld』、マック・ミラーの『Swimming』、それにシルク・ソニックの『An Evening With Silk Sonic』。これらを羅列するだけで2000年代以降の音楽シーンにおけるひとつのコンテクストが浮かび上がってくる。時代を象徴するそんな名作たちに彼は豊かなグルーヴを与え、それらを人知れず紡いできた。
ルイ・ヴィトンが2021年春夏メンズコレクションの際に制作した映像「The Adventures of Zoooom with Friends」で使用された楽曲にも、彼はサーラー・クリエイティブ・パートナーズによるプロデュースの下でテラス・マーティンやカマシ・ワシントンと共に参加している。ストリートカルチャーからモードへとつながるコンテクストを読み取り、誰もが想像しない規模にまで拡張してみせた同ブランドのメンズ アーティスティック・ディレクター、ヴァージル・アブローがそのクリエーションの一端にサンダーキャットの才能を求めたこと。お互いにトピックの多い両者のキャリアにおいてこの時のコラボレーションが語られることはそう多くないが、ヴァージルが亡くなった今、ドリーミーでどこかメランコリックなサウンドは当時にも増して心に訴えかけてくるものとなっている。あの楽曲もひとつの接点だった。
今回の来日ツアーでセットリストの大半を占めるであろう『It Is What It Is』について、サンダーキャットはリリース時のインタビューでそのテーマを、盟友マック・ミラーの死に直面したことで感じた「愛、喪失、人生、それに伴う浮き沈み」だと語っている。
“俺とマックには合言葉みたいなものがあった。「Sit Down and Let It Happen…(過ぎ去るのを待つしかない)」。どうしようもないことがあるってことさ。あいつはそれを紙に書いて家のスタジオの壁にいつも貼っていたんだ。
このアルバムをつくって俺が一番学んだことは、大丈夫じゃない時があっても結局は自分でどうにかするしかないということ。何とかしたいと思えば思うほど自分が傷つくだけなんだ。これ以上ないくらい痛い思いをしてそれを学ぶこともある。人生ってやつからは色んな形で色んなことを思い知らされる。おかしなものだけど、要は、傷ついて、喪失感を味わって、それからじゃないと立ち直れないというのが真理なんだと思う。いまの俺が立ち直れているのかどうかは正直わからない。ただ、こうして生きているということだけは確かだよ”
ロサンゼルスに燦々と降り注ぐ太陽の光を真正面から浴びたようなサウンドに対して、サンダーキャットの言葉はその背後にくっきりと影を落とす。代表曲のひとつ「Dragonball Durag」のふざけまくったMVも、当時付き合っていた彼女との辛い別れを経験した直後に制作されたものだ。高度な音楽性とバランスを取るような、あのエキセントリックなルックスもそういうことなのかもしれない。彼のこうした人間味溢れるアンビバレンスにこそ我々が惹きつけられているのだとしたら、この鬱屈とした日々の中で、あの幸福なライブ空間にいたいと思うことだって自然ではないだろうか。
THUNDERCAT 振替公演 新日程
東京公演
2022/5/16 (月) THE GARDEN HALL
1st Show - OPEN 17:30 / START 18:15
2nd Show - OPEN 20:30 / START 21:15
大阪公演
2022/5/17 (火) BIGCAT
1st Show - OPEN 17:30 / START 18:15
2nd Show - OPEN 20:30 / START 21:15
名古屋公演
2022/5/18 (水) 名古屋 CLUB QUATTRO
1st Show - OPEN 17:00 / START 18:00
2nd Show - OPEN 20:00 / START 20:45
盟友フライング・ロータスと共に、熱狂的なドラゴンボール好きを公言している彼ならではの一曲。
MVにはハイムやカリ・ウチスなど、親交の深いミュージシャンが友情出演している。
最新作『It Is What It Is』の中で最大のヒットとなった「Funny Thing」。
前述した「Dragonball Durag」同様、今回の日本ツアーでも必ずパフォーマンスされるはずだ。
サンダーキャットが楽曲面で参加したルイ・ヴィトンの2021春夏メンズコレクション映像。
ヴァージル・アブローのほか、ベンジー・Bが音楽監督としてクレジットされている。
マック・ミラーによるタイニー・デスク・コンサートの模様。
2曲目の「What's the Use?」はサンダーキャットが作曲に関わっており、最近の彼のライブでも何度か演奏されている。
PROFILE
1984年、ロサンゼルス出身。ブレインフィーダー所属。超絶技巧で弾きこなす6弦ベースがトレードマーク。キャリアのスタートは、兄のロナルド・ブルーナー・Jrと共に16歳でハードコアパンクバンド、スイサイダル・テンデンシーズに加入したことから。2022年にはスター・ウォーズシリーズの最新エピソード『ボバ・フェット』で俳優デビューも果たすなど、その活躍は多岐にわたる。
TEXT_YOHSUKE WATANABE(IN FOCUS)
ファッションの歴史を振り返ると、時代を象徴するスタイルの近くにはいつも音楽の存在があった。音楽が身にまとうべき服を教えてくれる。その服が、自分が何者であるかを世に示してくれる。UNIONが発信するカルチャーに特化したコンテンツ『KNOW THE LEDGE』にミュージックシーンに特化した『MUSIC BREAK』が新たにスタート。常識を壊してくれる最高のミュージシャンに出会おう。UNIONというカルチャーをより立体的に感じるために。
LAを拠点に活動するベーシスト/シンガー/ソングライターのサンダーキャットが5月16日から日本ツアーをスタートさせる。2度の延期により既に販売されたチケットが繰り越されることを受けて異例の1日2回公演となった今回。追加チケットが4月23日から販売されている。現時点での最新アルバム『It Is What It Is』が発売されたのは20年4月だった。それから現在まで、決して平穏とは言えない時間を経て、今再び、爆音で鳴らされるあの感情豊かなベースラインに身を委ねられる機会が訪れた。ほんの少しでいい。誰もがタフでいることを強いられたこの2年間を“It Is What It Is(しょうがない)”ことだったと思わせてくれないだろうか。
サンダーキャットことスティーブン・ブルーナーは、そのキャリアを通じて我々との間に実に多くの接点を生み出し続けてきた。21年3月に開催された第63回グラミー賞で最優秀プログレッシブR&Bアルバム部門を受賞した4thアルバム『It Is What It Is』や、世界的な評価を確立させた3rdアルバム『Drunk』といった自身の諸作は言うに及ばず、特筆すべきはこれまでに多くのミュージシャンを支えてきた客演の軌跡である。エリカ・バドゥの『New Amerykah』、フライング・ロータスの『Cosmogramma』、ケンドリック・ラマーの『To Pimp a Butterfly』、トラヴィス・スコットの『Astroworld』、マック・ミラーの『Swimming』、それにシルク・ソニックの『An Evening With Silk Sonic』。これらを羅列するだけで2000年代以降の音楽シーンにおけるひとつのコンテクストが浮かび上がってくる。時代を象徴するそんな名作たちに彼は豊かなグルーヴを与え、それらを人知れず紡いできた。
ルイ・ヴィトンが2021年春夏メンズコレクションの際に制作した映像「The Adventures of Zoooom with Friends」で使用された楽曲にも、彼はサーラー・クリエイティブ・パートナーズによるプロデュースの下でテラス・マーティンやカマシ・ワシントンと共に参加している。ストリートカルチャーからモードへとつながるコンテクストを読み取り、誰もが想像しない規模にまで拡張してみせた同ブランドのメンズ アーティスティック・ディレクター、ヴァージル・アブローがそのクリエーションの一端にサンダーキャットの才能を求めたこと。お互いにトピックの多い両者のキャリアにおいてこの時のコラボレーションが語られることはそう多くないが、ヴァージルが亡くなった今、ドリーミーでどこかメランコリックなサウンドは当時にも増して心に訴えかけてくるものとなっている。あの楽曲もひとつの接点だった。
今回の来日ツアーでセットリストの大半を占めるであろう『It Is What It Is』について、サンダーキャットはリリース時のインタビューでそのテーマを、盟友マック・ミラーの死に直面したことで感じた「愛、喪失、人生、それに伴う浮き沈み」だと語っている。
“俺とマックには合言葉みたいなものがあった。「Sit Down and Let It Happen…(過ぎ去るのを待つしかない)」。どうしようもないことがあるってことさ。あいつはそれを紙に書いて家のスタジオの壁にいつも貼っていたんだ。
このアルバムをつくって俺が一番学んだことは、大丈夫じゃない時があっても結局は自分でどうにかするしかないということ。何とかしたいと思えば思うほど自分が傷つくだけなんだ。これ以上ないくらい痛い思いをしてそれを学ぶこともある。人生ってやつからは色んな形で色んなことを思い知らされる。おかしなものだけど、要は、傷ついて、喪失感を味わって、それからじゃないと立ち直れないというのが真理なんだと思う。いまの俺が立ち直れているのかどうかは正直わからない。ただ、こうして生きているということだけは確かだよ”
ロサンゼルスに燦々と降り注ぐ太陽の光を真正面から浴びたようなサウンドに対して、サンダーキャットの言葉はその背後にくっきりと影を落とす。代表曲のひとつ「Dragonball Durag」のふざけまくったMVも、当時付き合っていた彼女との辛い別れを経験した直後に制作されたものだ。高度な音楽性とバランスを取るような、あのエキセントリックなルックスもそういうことなのかもしれない。彼のこうした人間味溢れるアンビバレンスにこそ我々が惹きつけられているのだとしたら、この鬱屈とした日々の中で、あの幸福なライブ空間にいたいと思うことだって自然ではないだろうか。
THUNDERCAT 振替公演 新日程
東京公演
2022/5/16 (月) THE GARDEN HALL
1st Show - OPEN 17:30 / START 18:15
2nd Show - OPEN 20:30 / START 21:15
大阪公演
2022/5/17 (火) BIGCAT
1st Show - OPEN 17:30 / START 18:15
2nd Show - OPEN 20:30 / START 21:15
名古屋公演
2022/5/18 (水) 名古屋 CLUB QUATTRO
1st Show - OPEN 17:00 / START 18:00
2nd Show - OPEN 20:00 / START 20:45
盟友フライング・ロータスと共に、熱狂的なドラゴンボール好きを公言している彼ならではの一曲。
MVにはハイムやカリ・ウチスなど、親交の深いミュージシャンが友情出演している。
最新作『It Is What It Is』の中で最大のヒットとなった「Funny Thing」。
前述した「Dragonball Durag」同様、今回の日本ツアーでも必ずパフォーマンスされるはずだ。
サンダーキャットが楽曲面で参加したルイ・ヴィトンの2021春夏メンズコレクション映像。
ヴァージル・アブローのほか、ベンジー・Bが音楽監督としてクレジットされている。
マック・ミラーによるタイニー・デスク・コンサートの模様。
2曲目の「What's the Use?」はサンダーキャットが作曲に関わっており、最近の彼のライブでも何度か演奏されている。