世の中を豊かにする人は、探求を怠ることなく、技術の向上に限界のないプロフェッショナルたちだ。彼らは我々に利便性を与えると同時に、言葉を語ればさまざまなインスピレーションを与えてくれる。
しかし、プロの中には世の中を良くするのではなく、人を良くする者もいる。世田谷区経堂に医院を構える『はなまる整骨院』は、地元に住むご高齢者からカルチャーの最前線で活躍するクリエイターまで、老若男女が絶大な信頼を寄せる疲れたカラダの拠り所である。
院長の中野浩樹は、人体の構造を深く理解し、的確な施術でアーティストに元気な明日を提供してきた。しかし、店内ではKUUMBAのお香が焚かれ、ステッカーまみれの入口の脇にはグラフィティライターのZINEが無造作に並べられるなど、医院のいたるところにストリートカルチャーのエッセンスが散りばめられている。
「Tools Tour」では、そんな中野氏の異例の経歴と技術の真髄に迫った。
『はなまる整骨院』は開院から17年目を迎えましたが、元々はこの世界に全く興味がなくて。大学卒業後、仕事を探しているときに父親から「うちは手先が器用な家系だから、手に職をつけたらどうだ」と言われたことがキッカケで、今後飯を食えるものを探した結果、整体師に興味を持つようになりました。そのときの気持ちは何処で、今ではこの世界にどっぷりハマっています(笑)。
僕は技術至上主義なので、毎年アメリカに渡って人体解剖の実習に立ち合わせていただいています。僕は人のカラダを扱う仕事なので、根拠がないと提供できないサービス。本など2Dで勉強している人も多いと思うのですが、ご献体を解剖すると、色々な発見や気付きがあります。例えば「この箇所、思ったより腕の内側にあるな」「この指の長さと圧力じゃ届かないな」とか。解剖直後は、人のカラダが透けて見えるような感覚ですね。生身のカラダに働きかけていることが、当院がリアルであり、効果を感じて長く通院してくれる人に恵まれている理由だと思います。今でこそアパレル、アート、音楽などジャンルを問わずにクリエイティブな職種の方にもお越しいただいていますが、師匠から店を引き継いだ当初は手書きのビラを至る所に撒かないといけないほど、客足が遠のいたんですよ。でも、わざわざ経堂まで足を伸ばしてくれる人は地元の人がいることに安心感を感じてくれて、一方の地元のご高齢者はオシャレな人がいることに好感を持ってくれる。相乗効果ですね。お爺さんやお婆さんが、ストリートから発刊されたZINEを読んだりしている姿も珍しくありません(笑)。
ストリートカルチャーへのめり込んだのは、地元伊勢の地域性ですかね。僕の学生時代はHi-STANDARDを筆頭に、メロコアが席巻していた時代。僕の地元はパンクやハードコアが主流で、もちろんスケートボードをしている奴もいれば、ビー・バップの奴もいました。ただ、僕は全く不良ではなく、純粋に勉強が好きで。そうすると、彼らが僕に勉強を教えて欲しいと色々聞いてくるんですよね。その見返りではないですけど、彼らは「これ、聴きなよ」って旬のアーティストを教えてくれたりして。
そういう情報交換から、自分はハードコアのメタリックハードコアやビートダウン、ニュースクールに傾倒するようになりました。例えば、大阪だとStraight Savage StyleやEDGE OF SPIRIT、名古屋にはTOKONA-Xを輩出した052というクルーがいて、東京はNUMB、State Craft。ただ、当時のハードコアはヒップホップと密接な関係にあったので、ヒップホップはそこから。『ピンクノイズ』(二子玉川のクラブ)でMC漢を見た時には度肝を抜かれて、以降「Libra Records」周りを中心に、日本語ラップやフリースタイルも聴くようになりました。
グラフィティはまた別の入口で、地元の「ScribeArtWorks」と同級生なんです。彼らは高校の時から描いていて、『KAZE MAGAZINE』(日本のストリートアート誌)とかも持っていたし、時には一緒に描いて。実は『はなまる整骨院』のTシャツも彼らが作ってくれたものです。10周年を記念して、「いつか一緒にやろうよ」って言っていたことを叶えることができました。
KUUMBAを焚いたり、お灸で使うモグサをパケやビンに入れてみたりとユニークなこともやっていますが、本当のところは整骨院は皆、競争率の高さから肩身が狭く、廃業するところも少なくありません。厚生労働省の調べでは、90%の人が整骨院に行ったことがあるのに対し、整骨院で健康維持をしている人は33%しかいません。そして、その続かない理由が「高すぎる」と「効果がない」の2種類なんです。江戸時代からある文化で元々は大衆のものだったのに、今では質のいい高級志向か、安価で効果がないものに二分しつつあります。これでは業界にも明るい未来は待っていないと思い、「◯◯(場所)ではなまる」と題し、全国津々浦で出張サービスを不定期に行っています。それにより、皆さんには整体の素晴らしさを体感してもらい、整体師の皆さんには技術があって適切な展開をすればお客さんは来てくれるということを伝えていきたいです。自分の技術、自分のお客さんなどアピールをしないとお客さんが来ない状態は、業界として決して健全ではありません。「健康」がキーワードです。遊ぶにも仕事するにも、元気であることが絶対条件ですから。
そしてもうひとつ、今は職業別の治療方法を考案できるよう、計画を練っています。スポーツには特性がありますが、職業の特性は解明されていません。受付、コーヒー屋、オフィスワーカー、美容師などの凝りや疲労のメカニズムを身を持って体験することで、職種にあった治療法を見つけられると確信しています。
はなまる整骨院 @hanamaru_kyodo
美女たちの顔に鍼をブチこみまくる整骨院が世田谷区は経堂にある。一見、町の整骨院。
中に入ってみると、KUUMBAのお香がモクモク焚かれ、老若男女が整体と鍼を受けて元気に帰っていく。
ここは、みんなのchill out spot と呼ばれ腕利きの職人達が揃う、はなまる整骨院/HANAMARU。
ボスの中野浩樹は毎年、アメリカでドクターたちと人体解剖を行い、整体と鍼に特化した身体の研究をし、18年間で培ったワンランク上の感覚をプッシュします。
世の中を豊かにする人は、探求を怠ることなく、技術の向上に限界のないプロフェッショナルたちだ。彼らは我々に利便性を与えると同時に、言葉を語ればさまざまなインスピレーションを与えてくれる。
しかし、プロの中には世の中を良くするのではなく、人を良くする者もいる。世田谷区経堂に医院を構える『はなまる整骨院』は、地元に住むご高齢者からカルチャーの最前線で活躍するクリエイターまで、老若男女が絶大な信頼を寄せる疲れたカラダの拠り所である。
院長の中野浩樹は、人体の構造を深く理解し、的確な施術でアーティストに元気な明日を提供してきた。しかし、店内ではKUUMBAのお香が焚かれ、ステッカーまみれの入口の脇にはグラフィティライターのZINEが無造作に並べられるなど、医院のいたるところにストリートカルチャーのエッセンスが散りばめられている。
「Tools Tour」では、そんな中野氏の異例の経歴と技術の真髄に迫った。
『はなまる整骨院』は開院から17年目を迎えましたが、元々はこの世界に全く興味がなくて。大学卒業後、仕事を探しているときに父親から「うちは手先が器用な家系だから、手に職をつけたらどうだ」と言われたことがキッカケで、今後飯を食えるものを探した結果、整体師に興味を持つようになりました。そのときの気持ちは何処で、今ではこの世界にどっぷりハマっています(笑)。
僕は技術至上主義なので、毎年アメリカに渡って人体解剖の実習に立ち合わせていただいています。僕は人のカラダを扱う仕事なので、根拠がないと提供できないサービス。本など2Dで勉強している人も多いと思うのですが、ご献体を解剖すると、色々な発見や気付きがあります。例えば「この箇所、思ったより腕の内側にあるな」「この指の長さと圧力じゃ届かないな」とか。解剖直後は、人のカラダが透けて見えるような感覚ですね。生身のカラダに働きかけていることが、当院がリアルであり、効果を感じて長く通院してくれる人に恵まれている理由だと思います。今でこそアパレル、アート、音楽などジャンルを問わずにクリエイティブな職種の方にもお越しいただいていますが、師匠から店を引き継いだ当初は手書きのビラを至る所に撒かないといけないほど、客足が遠のいたんですよ。でも、わざわざ経堂まで足を伸ばしてくれる人は地元の人がいることに安心感を感じてくれて、一方の地元のご高齢者はオシャレな人がいることに好感を持ってくれる。相乗効果ですね。お爺さんやお婆さんが、ストリートから発刊されたZINEを読んだりしている姿も珍しくありません(笑)。
ストリートカルチャーへのめり込んだのは、地元伊勢の地域性ですかね。僕の学生時代はHi-STANDARDを筆頭に、メロコアが席巻していた時代。僕の地元はパンクやハードコアが主流で、もちろんスケートボードをしている奴もいれば、ビー・バップの奴もいました。ただ、僕は全く不良ではなく、純粋に勉強が好きで。そうすると、彼らが僕に勉強を教えて欲しいと色々聞いてくるんですよね。その見返りではないですけど、彼らは「これ、聴きなよ」って旬のアーティストを教えてくれたりして。
そういう情報交換から、自分はハードコアのメタリックハードコアやビートダウン、ニュースクールに傾倒するようになりました。例えば、大阪だとStraight Savage StyleやEDGE OF SPIRIT、名古屋にはTOKONA-Xを輩出した052というクルーがいて、東京はNUMB、State Craft。ただ、当時のハードコアはヒップホップと密接な関係にあったので、ヒップホップはそこから。『ピンクノイズ』(二子玉川のクラブ)でMC漢を見た時には度肝を抜かれて、以降「Libra Records」周りを中心に、日本語ラップやフリースタイルも聴くようになりました。
グラフィティはまた別の入口で、地元の「ScribeArtWorks」と同級生なんです。彼らは高校の時から描いていて、『KAZE MAGAZINE』(日本のストリートアート誌)とかも持っていたし、時には一緒に描いて。実は『はなまる整骨院』のTシャツも彼らが作ってくれたものです。10周年を記念して、「いつか一緒にやろうよ」って言っていたことを叶えることができました。
KUUMBAを焚いたり、お灸で使うモグサをパケやビンに入れてみたりとユニークなこともやっていますが、本当のところは整骨院は皆、競争率の高さから肩身が狭く、廃業するところも少なくありません。厚生労働省の調べでは、90%の人が整骨院に行ったことがあるのに対し、整骨院で健康維持をしている人は33%しかいません。そして、その続かない理由が「高すぎる」と「効果がない」の2種類なんです。江戸時代からある文化で元々は大衆のものだったのに、今では質のいい高級志向か、安価で効果がないものに二分しつつあります。これでは業界にも明るい未来は待っていないと思い、「◯◯(場所)ではなまる」と題し、全国津々浦で出張サービスを不定期に行っています。それにより、皆さんには整体の素晴らしさを体感してもらい、整体師の皆さんには技術があって適切な展開をすればお客さんは来てくれるということを伝えていきたいです。自分の技術、自分のお客さんなどアピールをしないとお客さんが来ない状態は、業界として決して健全ではありません。「健康」がキーワードです。遊ぶにも仕事するにも、元気であることが絶対条件ですから。
そしてもうひとつ、今は職業別の治療方法を考案できるよう、計画を練っています。スポーツには特性がありますが、職業の特性は解明されていません。受付、コーヒー屋、オフィスワーカー、美容師などの凝りや疲労のメカニズムを身を持って体験することで、職種にあった治療法を見つけられると確信しています。
はなまる整骨院 @hanamaru_kyodo
美女たちの顔に鍼をブチこみまくる整骨院が世田谷区は経堂にある。一見、町の整骨院。中に入ってみると、KUUMBAのお香がモクモク焚かれ、老若男女が整体と鍼を受けて元気に帰っていく。ここは、みんなのchill out spot と呼ばれ腕利きの職人達が揃う、はなまる整骨院/HANAMARU。
ボスの中野浩樹は毎年、アメリカでドクターたちと人体解剖を行い、整体と鍼に特化した身体の研究をし、18年間で培ったワンランク上の感覚をプッシュします。