フランスの思想家ヴォーヴナルグの「偉大な思想は胃袋から生まれる」という言葉があるように、食は人の生活を支え、アイデアの源となる。
東京は世界が羨むグルメタウン。例に漏れることなく、我ら『UNION TOKYO』の徒歩圏内にも新旧名店が点在し、食べるに困ることはない。
知の喜びを掘り下げる「KNOW THE LEDGE」のフードカルチャーシリーズ、“HOOD’S FOODS”の最新エピソードでは『UNION TOKYO』とのコラボレーションでもお馴染みの『HOTEL DRUGS』を訪れる。
サードウェーブが全盛を迎えた2015年、原宿の最奥地にオープンした『HOTEL DRUGS』。名物店主・ナタリーとそのスタッフの下には、東京ストリートカルチャーの重鎮から近所の子どもたち、通りがかりのタクシードライバーまで、老若男女が絶えず集う。
わずか4坪のコーヒースタンドだが、“HOTEL”にして、“DRUGS”。その店名は、幼少期の思い出に由来する。
「“DRUGS”は、中毒になってほしいという想いを込めて。コーヒーもそうだけど、人にも、場所にも。“HOTEL”は、私の祖母がずっとホテルをやっていたから。小さい頃、学校から帰宅したら一目散にお婆ちゃんのもとに駆けつけて、一緒にカウンターで店番をしながら一緒に時代劇を見るのが大好きでした。そこが私にとって初めての接客業。どんな人にも笑顔で、優しくて、本当に人間の鏡のような心から尊敬する人です」
『HOTEL DRUGS』入門者なら、まずは自家焙煎の豆の風味をミルクの優しさで包み込んだ“LATTE”をピックアップしよう。身体の冷えが気にならない日は、冬でもアイスが吉だ。
または、原宿の喧騒に嫌気が差しているときは、CBD入りの“REAL BAD CHAI”でリラックスしてもいいかもしれない。STÜSSYの元アートディレクターで、現在はReal Bad Manを展開するAdam Weìssmanと考案したメニューが、今では定番化。チャイラテ+エスプレッソのダーティチャイをベースとしながらも、CBDを垂らすアイデアはいかにも“側の人間”らしい。
読者の中には、CONVERSE SKATEBOARDING、ACTUAL SOURCE、relax magazine、ON AIRなど、国内外のアカウントと神出鬼没にコラボレーションを発表する町のコーヒーショップの正体が気になっている人も多いことだろう。しかし、ナタリーにとってそれは転機となるような特別なキッカケがあったわけではなく、『HOTEL DRUGS』の現在地は10代の遊びの延長線上にあり、当時から続く人の輪そのものなのだという。
「10代からずっと渋谷・原宿にいて、若い頃は毎晩クラブでダンスしていました。もちろん、バリスタとしてもずっとココにいる。コーヒーを買いにきてくれる自転車屋、スケートショップ、デザイン事務所とかの人たちは、夜になれば遊び仲間。先輩も後輩もみんな同じように歳をとって、彼らが今でもDRUGSに顔を出してくれるだけなんです。意図的に繋がったことはなくて、元々友達。その友達がまた友達を連れてきてくれたり、仕事仲間と立ち寄ってくれたり、そんな時間の積み重ねによって少しずつ輪が広がっていった感じかな」
しかし、8年の営業も決して順風満帆だったわけではない。昔はコミュニティそのものだったコーヒーショップも、スマートフォンやSNSの台頭でコミュニケーションが希薄化。世の中の変化により、カウンター越しから血の通ったキャッチボールを試みることは難しくなってしまった。
「昔は何とか笑顔を引き出そうと接客に命をかけていたけれど、『こんにちは』を無視され、スマホ片手に目も合わせず『ラテ』とだけ言われたり、お金を投げつけられたり……。そんな経験を繰り返すうちに、人の汚い部分が見えるようになって、気がついた頃には自分を守るようになっていました」
「塩対応とか言われたりもするけれど、私たちも人間です。店員とお客さんの間に上下関係はいらないし、フラットで、互いにリスペクトがあることが素敵な関係だと思いませんか?もちろん、いきなり友達のようにはなれないけれど、目があうだけで少しはハートが通うし、私だって本当は優しいおばちゃんなんです(笑)」
「色々なイメージを持ってうちに来てくれる人がいますが、私が好きな本来のコーヒーショップは、お金を払えばコーヒーが飲める場所でもなければ、インスタグラムを投稿する場所でもなくて、人と人が繋がれる場所なんです」
ナタリーが思い描く理想像は、“口うるさい近所の駄菓子屋”だ。誰かの憩いの場にもなれば、時には愛のある叱責が飛ぶことだってある。
最近はまたひとつ命を授かったため育児に専念しており、店頭は若い衆に任せているナタリー。しかし、それによって新たなコミュニティーが生まれることを彼女はとてもポジティブに捉えている。
また、ショップを「スタッフの表現の場として使ってもらいたい」と挑戦にも寛容で、そこから誕生した月曜日限定のサンドイッチは外苑西通りのストリートフードとして定着しそうだ。
人間味のあるコーヒースタンド、それが『HOTEL DRUGS』なのだ。
▼HOTEL DRUGS
住所:東京都渋谷区神宮前2丁目12−3
営業時間:(月〜水)10:00 - 17:00(木〜土)10:00 - 20:00
定休日:日・祝
フランスの思想家ヴォーヴナルグの「偉大な思想は胃袋から生まれる」という言葉があるように、食は人の生活を支え、アイデアの源となる。
東京は世界が羨むグルメタウン。例に漏れることなく、我ら『UNION TOKYO』の徒歩圏内にも新旧名店が点在し、食べるに困ることはない。
知の喜びを掘り下げる「KNOW THE LEDGE」のフードカルチャーシリーズ、“HOOD’S FOODS”の最新エピソードでは『UNION TOKYO』とのコラボレーションでもお馴染みの『HOTEL DRUGS』を訪れる。
サードウェーブが全盛を迎えた2015年、原宿の最奥地にオープンした『HOTEL DRUGS』。名物店主・ナタリーとそのスタッフの下には、東京ストリートカルチャーの重鎮から近所の子どもたち、通りがかりのタクシードライバーまで、老若男女が絶えず集う。
わずか4坪のコーヒースタンドだが、“HOTEL”にして、“DRUGS”。その店名は、幼少期の思い出に由来する。
「“DRUGS”は、中毒になってほしいという想いを込めて。コーヒーもそうだけど、人にも、場所にも。“HOTEL”は、私の祖母がずっとホテルをやっていたから。小さい頃、学校から帰宅したら一目散にお婆ちゃんのもとに駆けつけて、一緒にカウンターで店番をしながら一緒に時代劇を見るのが大好きでした。そこが私にとって初めての接客業。どんな人にも笑顔で、優しくて、本当に人間の鏡のような心から尊敬する人です」
『HOTEL DRUGS』入門者なら、まずは自家焙煎の豆の風味をミルクの優しさで包み込んだ“LATTE”をピックアップしよう。身体の冷えが気にならない日は、冬でもアイスが吉だ。
または、原宿の喧騒に嫌気が差しているときは、CBD入りの“REAL BAD CHAI”でリラックスしてもいいかもしれない。STÜSSYの元アートディレクターで、現在はReal Bad Manを展開するAdam Weìssmanと考案したメニューが、今では定番化。チャイラテ+エスプレッソのダーティチャイをベースとしながらも、CBDを垂らすアイデアはいかにも“側の人間”らしい。
読者の中には、CONVERSE SKATEBOARDING、ACTUAL SOURCE、relax magazine、ON AIRなど、国内外のアカウントと神出鬼没にコラボレーションを発表する町のコーヒーショップの正体が気になっている人も多いことだろう。しかし、ナタリーにとってそれは転機となるような特別なキッカケがあったわけではなく、『HOTEL DRUGS』の現在地は10代の遊びの延長線上にあり、当時から続く人の輪そのものなのだという。
「10代からずっと渋谷・原宿にいて、若い頃は毎晩クラブでダンスしていました。もちろん、バリスタとしてもずっとココにいる。コーヒーを買いにきてくれる自転車屋、スケートショップ、デザイン事務所とかの人たちは、夜になれば遊び仲間。先輩も後輩もみんな同じように歳をとって、彼らが今でもDRUGSに顔を出してくれるだけなんです。意図的に繋がったことはなくて、元々友達。その友達がまた友達を連れてきてくれたり、仕事仲間と立ち寄ってくれたり、そんな時間の積み重ねによって少しずつ輪が広がっていった感じかな」
しかし、8年の営業も決して順風満帆だったわけではない。昔はコミュニティそのものだったコーヒーショップも、スマートフォンやSNSの台頭でコミュニケーションが希薄化。世の中の変化により、カウンター越しから血の通ったキャッチボールを試みることは難しくなってしまった。
「昔は何とか笑顔を引き出そうと接客に命をかけていたけれど、『こんにちは』を無視され、スマホ片手に目も合わせず『ラテ』とだけ言われたり、お金を投げつけられたり……。そんな経験を繰り返すうちに、人の汚い部分が見えるようになって、気がついた頃には自分を守るようになっていました」
「塩対応とか言われたりもするけれど、私たちも人間です。店員とお客さんの間に上下関係はいらないし、フラットで、互いにリスペクトがあることが素敵な関係だと思いませんか?もちろん、いきなり友達のようにはなれないけれど、目があうだけで少しはハートが通うし、私だって本当は優しいおばちゃんなんです(笑)」
「色々なイメージを持ってうちに来てくれる人がいますが、私が好きな本来のコーヒーショップは、お金を払えばコーヒーが飲める場所でもなければ、インスタグラムを投稿する場所でもなくて、人と人が繋がれる場所なんです」
ナタリーが思い描く理想像は、“口うるさい近所の駄菓子屋”だ。誰かの憩いの場にもなれば、時には愛のある叱責が飛ぶことだってある。
最近はまたひとつ命を授かったため育児に専念しており、店頭は若い衆に任せているナタリー。しかし、それによって新たなコミュニティーが生まれることを彼女はとてもポジティブに捉えている。
また、ショップを「スタッフの表現の場として使ってもらいたい」と挑戦にも寛容で、そこから誕生した月曜日限定のサンドイッチは外苑西通りのストリートフードとして定着しそうだ。
人間味のあるコーヒースタンド、それが『HOTEL DRUGS』なのだ。
▼HOTEL DRUGS
住所:東京都渋谷区神宮前2丁目12−3
営業時間:(月〜水)10:00 - 17:00(木〜土)10:00 - 20:00
定休日:日・祝